田原あゆみ エッセイ

スープの上の青空

田原あゆみ エッセイ

時間の流れは今を基軸にして、今から未来、今から過去へ一つのラインの中にある。今の連続しかここにはなくて、どんどん流れていって取り返しがつかない。今、と意識するとそれはもう流れていって、時というのは捕まえられない。過去はデーターで、未来は夢で妄想だったり、希望だったり。

そんな風に考えていたこともあった。

そう、それは思考の中のお遊びだった。

時間、という言葉は時計を見る時や、誰かとも待ち合わせの時に今何をしたらいいのかを計る道具だと思おう。

私たちの生きる空間は多層だ。パイ生地のようにサクサクと香ばしいパイとその香りを含んだ空気で何重にもなっている。それはきっと無限の層。

田原あゆみ エッセイ

誰かが歩いたあとを感じる石の階段。何百年もの間に付いた、誰かの形跡。石の中にも記憶が宿っている。

そうだ、私たち生き物の層もまた無限なのだ。

何代にもわたる膨大な生き物の記憶。遠い遠い祖先の見たもの触れたもの。草原を駆ける馬の群れを見ていた記憶、何日も雨が降って大地が水で覆われた記憶、誰かの奏でる楽器の音色、そっと触れた桃の肌、老いた顔に表れた慈愛、小さきものの体温の熱さ、コントロールできるものできないもの、自然の不思議。

私たちは、様々な記憶が溶け込んだスープの中に生きている。

そんな今日は目が開けていられないほどの青空。